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漫画読んだら霊に憑かれた話

十五、六年前のことだ。

その日わたしは、実家の母が送って寄越した古雑誌を読んでいた。

水曜日に発売する2冊のうちのどちらかだから、サンデーかマガジンだろう。

当時のわたしはひどく貧乏で、娯楽に乏しい暮らしをしていたものだから、3週間まえに発売して実家の喫茶店で読み古され、本のどこかに干からびた焼きそばが挟まったような古雑誌でも、それはうきうきとページをめくったものだった。

巻末のほうに読みきりのホラー漫画が載っていた。

期待の新人、みたいなアオリは特にない。連載陣のだれかが落として代原としての掲載だろうか。無名の新人にしては、1ページ目からすでにぞくりと来るような凄みがある。

あらすじはこうだ。

むかしむかし、あるところに人殺しの男がおりました。男は、若い女ばかり何十人も殺めたので、死後も人々の口伝えに恐れられました。ある絵師が噂を聞きつけ、一幅の掛け軸を描いたところ、なんと夜な夜な、絵から男が抜け出し女を手にかけるようになったのです。この恐ろしい掛け軸を託された寺の住職は、絵を処分することで男が解き放たれてしまうのを恐れ、封印するに留めておくことにしました。やがて時は過ぎ、忌まわしい記憶も忘れ去られていきました。

そして現代、経営に困った寺がいわく付きの掛け軸を蔵から引っ張り出し、「封印された幽霊画、数百年ぶりに公開!」と銘打って特別展示を行うところから物語はスタートする。

展示にやってきたある女子高生が、
「幽霊なんているわけないじゃん!」
と掛け軸に貼られた封印のお札を引っぺがしてしまい、
そのあと恐怖体験に見舞われて最終的に死亡を匂わせる描写で作品は終わっていた。

ああ、やっちまった。
思えば警告はちゃんと来ていたのだ。
1ページ目を見たときに「凄み」だと思っていた、ぞくりとした感覚。
あれは霊感が危険を訴える声だったんだ。

女子高生が封印のお札をはがすシーン、
描かれた人物の顔の部分に、目線を入れるように貼られたお札。

お札をはがして、絵の中の「男」と目が合って、『ひっ…』と小さく悲鳴を上げる女子高生。

そのシーンを読んだ瞬間に、わたしも目が合ってしまった・・・・・・・・・・・・・
漫画のコマ越しに、「男」と。

何か、とてもイヤなものと「繋がってしまった」感触。
正体不明のストレスが突然あたまのなかを埋め尽くす。
必死で考えないようにしても、
「男」の目がこちらを見ている光景が、どうしても意識から離れなかった。

当時修行中だったわたしはこの日も行(ぎょう)を行ったのだけれど、
「男」の視線が脳裏にこびりついて、まったく身が入らなかった。
気功をやってる友人たちとのオンラインミーティング中にも、
「shinjiくん、今度は何やらかしたの?すごい邪気出してるけど」
と言われる始末だ。

直接的な影響は三日くらいで抜けた。
思い出してぞわぞわするのは1年くらい継続してしまったが、
大きな害はなかったので霊障としては軽微で済んだと考えている。

ところで、この記事を書いていて、ふと気になったことがある。

わたしが読んだあの話は、フィクションだ。
当時、似たような掛け軸の話が存在しないかとインターネットで検索してみたが、
そんな話はついぞ見つけることはできなかった。

あの話はフィクションだ、
それは間違いない。
じゃあ一体、
わたしと目が合ったあの「男」は、
「どこ」から来たんだ?

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